福岡地方裁判所 昭和48年(ワ)1123号 判決 1974年12月20日
原告
古川フサ子
ほか一名
被告
有限会社日新交通
ほか一名
主文
一 被告らは各自、原告古川フサ子に対し金二九万四、一四四円とうち金二六万四、一四四円に対する昭和四八年六月二六日から、残金三万円に対する本判決言渡の日から各支払ずみまで年五分の割合による金員を、原告竹下晴美に対し金二九万九、一四三円と、うち金二六万九、一四三円に対する昭和四八年六月二六日から、残金三万円に対する本判決言渡の日から各支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。
二 原告らのその余の請求をいずれも棄却する。
三 訴訟費用は、原告らに生じたものの三分の二を被告らの連帯負担とし、その余は各自の負担とする。
四 この判決の第一項は仮に執行することができる。
事実
第一当事者の求めた裁判
一 請求の趣旨
1 被告らは各自、原告古川フサ子に対し、金四六万二、三九一円、原告竹下晴美に対し金四五万四、〇八一円およびこれらに対する昭和四八年六月二六日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。
2 訴訟費用は被告らの負担とする。
3 仮執行の宣言
二 請求の趣旨に対する答弁
1 原告らの各請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告らの負担とする。
第二当事者の主張
一 請求の原因
1(事故の発生)
原告らは左記の事故により、左記の傷害を受けた。
(一) 発生時 昭和四八年六月二六日午前一時四〇分ころ
(二) 発生地 福岡市博多区上川端町一〇番二四一号
川端通商店街内交差点(以下、本件交差点という)
(三) 加害車両 普通乗用自動車(福岡五五ア三五三一号)
運転手 被告 平山弼
(四) 被害車両 軽四輪自動車(六福岡ホ七三四五号)
運転手 訴外 矢山廣美
被害者 原告ら(被害車両に同乗中)
(五) 態様 本件交差点内において渕上方面より川端通りを川端町電停方面に向つて進行中の被害車両の左側面に、中洲方面より冷泉公園方面へ向けて進行して来た加害車両の前部が衝突した。
(六) 傷害内容
原告 古川フサ子 左頭部、左上腕、左大腿および左下腿部各打撲傷、両眼屈折異常
原告 竹下晴美 左側頭部、左胸部および左手腕関節部各打撲傷
2(責任原因)
(一) 被告有限会社日新交通は、加害車を所有し、自己のために運行の用に供していたものであるから自賠法第三条による責任。
(二) 被告平山弼は本件事故発生につき次のような過失があるから不法行為者として民法第七〇九条の責任。
(1) 被告平山が進行していた道路には、本件交差点の手前に、一時停止の標識が設置されていたのであるから一時停止して安全を確認したうえで進入すべき義務があつたにもかかわらず、慢然と交差点に進入し、被害車両に衝突した過失。
(2) 夜間であるにもかかわらず、前照灯を点灯していなかつた過失。
3(損害額)
(一) 原告 古川フサ子
(1) 診療費 金二三万六、六〇〇円
(2) 入院諸雑費(一日金三〇〇円、七日分)金二、一〇〇円
(3) 通院交通費(七六日分、うち七二日はタクシーで往復四六〇円、残る四日は市内電車で往復七〇円) 金三万三、四〇〇円
(4) 逸失利益 金二九万九、〇八一円
原告古川は本件事故発生当時スナツクブラボーにホステスとして勤務し、給料月額金九万二、五〇〇円を得ていたのであるが本件事故により九七日間欠勤したので金二九万九、〇八一円の損害を蒙つた。
(5) 慰藉料 金二五万円
原告古川の傷害の部位、程度、同人の入院中自宅に泥棒が入つたため、入院七日(自昭和四八年六月二七日、至同年七月三日)で無理に退院したこと、七六日に及ぶ通院実日数(自同年七月四日、至同年九月二六日)等、諸般の事情を考慮すれば金二五万円が相当である。
(6) 弁護士費用 金四万円
原告古川は本件原告訴訟代理人に対し、本訴の提起追行を委任し、第一審判決言渡の日に弁護士費用を支払うことを約した。訴訟の必要性、本訴の請求額、追行の難易等を考えれば、うち金四万円が本件事故と相当因果関係に立つ損害である。
(二) 原告 竹下晴美
(1) 診療費 金二〇万六、六〇〇円
(2) 入院諸雑費(一日金三〇〇円、五日分) 金一、五〇〇円
(3) 通院交通費(七一日、うち六八日はタクシーで往復五二〇円、残る三日は市内電車で往復七〇円) 金三万五、五七〇円
(4) 逸失利益 金二九万九、〇八一円
原告竹下も原告古川と同じスナツクに動務し、同額の収入を得ていたところ、同じ期間欠勤せざるを得なかつたので、請求原因3(一)(4)と同じ額の損害を生じた。
(5) 慰藉料 金二四万円
原告竹下の傷害の部位、程度、同人の入院中自宅に泥棒が入つたため入院五日(自昭和四八年六月二六日、至同月三〇日)で無理に退院したこと、七一日におよぶ通院実日数(自同年七月一日、至同年九月二六日)被告らに誠意がみられないことなど諸般の事情を考慮すれば金二四万円が相当である。
(6) 弁護士費用 金四万円
原告竹下は本件原告訴訟代理人に対し、本訴の提起追行を委任し、第一審判決言渡の日に弁護士費用を支払うことを約した。請求原因3(一)(6)と同じ事由によりうち金四万円が本件事故と相当因果関係に立つ損害である。
4(損害の填補)
(一) 原告古川は自賠責保険および責任共済から合計金三八万八、七九〇円の填補を受けた。
(二) 原告竹下は右(一)と同様に合計金三六万八、六七〇円の填補を受けた。
5 よつて被告らそれぞれに対し、原告古川は右損害賠償として金四六万二、三九一円原告竹下は同金四五万四、〇八一円と、右各原告の金員に対する本件不法行為の日である昭和四八年六月二六日から支払ずみまで年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。
二 請求原因に対する認否
1 請求原因1(一)ないし(五)は認める。同(六)は知らない。
2 同2(一)および(二)(1)は認めるが、その余は否認する。
3 同3のうち、各原告の治療日数の相当性、通院用タクシーの必要性、慰藉料の額および弁護士費用の額の相当性についてはいずれも争い、その余の事実は不知。
4 同4は認める。
三 抗弁
(過失相殺)
本件交差点は信号機その他交通整理が行なわれておらず、かつ左右の見通しも悪い所である。しかも被害車両が進行していたのは上川端町商店街のアーケード道路で、その幅員は交差道路に比し、明らかに狭かつた。それにもかかわらず訴外矢山は、交差道路を進行してくる加害車両を発見した後においても、自己の車両が先に交差点を通過することができると安易に判断して時速四〇キロメートルのまま、ブレーキを踏むなどの事前に衝突を回避する措置を全くとらなかつた。
原告らは、かねてから知り合いの訴外矢山の好意に甘え、深夜無償で被害車両に同乗し、本件事故に遭遇したものであるから本件事故は原告らにとつては、自ら招いた危険というべき側面を有しており、原告らの請求は相当に減額されてしかるべきである。
他方、被告平山の一時停止義務違反は、当該標識が上川端商店街が通常買物客の通行量が多い為に設置されたものであることを考えれば、本件の場合の如く深夜人通りが予想されない時間の右義務違反は通常の場合に比してその違法性は小さいというべきである。
四 抗弁に対する認否
訴外矢山に過失があつたことは認めるがその余は否認する。
第三証拠〔略〕
理由
一 事故の発生
請求原因1(一)ないし(五)については当事者間に争いがなく、〔証拠略〕によれば原告らはそれぞれ請求原因1(六)のとおりの傷害を受けたことが認められ、これに反する証拠はない。
二 責任原因
請求原因乙の(一)および(二)(1)についても当事者間に争いがない。原告らは、請求原因2(二)(2)のとおり、加害車両が前照灯を点灯せずに走行していたと主張し、中には、右主張にそうかの如き供述があるけれども、〔証拠略〕によれば、原告両名はもとより、訴外矢山広美、被告平山も原告ら主張の如き供述をしていないことが認められる。この事実を考慮すれば、前掲各原告本人の供述部分はにわかに信用できず、他に右原告ら主張の事実を認めるに足る証拠はない。
三 本件事故と相当因果関係にある原告らの損害
1 原告古川関係(慰藉料・弁護士費用を除く)
(一) 治療費 二二万六、四四〇円
〔証拠略〕によれば、原告古川は本件事故による傷害を治療するため、昭和四八年六月二七日から同年七月三日まで(七日間)広瀬外科に入院したが、盗難さわぎもあつて、留守が不安なため、敢えて早期に退院したこと、そして同年六月二六日および同年七月四日から同年九月二六日まで同外科に通院し、その間、実日数で七二日、回数で七五回受診した(一日二回のこともあつた)ほか、同通院期間中に一回だけ大島眼科において検査、治療を受け、合計二二万六、四四〇円の治療費を要したことが認められる。
(二) 入院雑費 二、一〇〇円
右(一)で認定した入院の事実および前記一の傷害の内容に基づけば、原告古川は入院中の諸雑費として、平均日額三〇〇円を下らない費用を要したであろうことは、経験上容易に首肯できる。
(三) 通院交通費 二万七、八七〇円
〔証拠略〕によれば、原告古川は本件受傷により通院治療期間中も、めまい、吐き気、頭痛が著しい日が多く、通院のために電車・バス等の公衆乗り合の交通期間の利用に苦痛を覚え、タクシーを使用せざるを得ず、広瀬医師もこれを相当と考えたこと、前記(一)で認定した実通院七五回のうち、昭和四八年八月までの分は五八回であること、原告古川は昭和四八年一〇月一日からは一時的に従前の勤務先にホステスとして応援に出向いたりしていることが認められる。
右の事実によれば、原告古川の昭和四八年八月末までの通院五八回については、タクシーを利用する必要性があつたことは首肯できるところ、〔証拠略〕によればその一回の往復料金は四六〇円と認められるから、二万六、六八〇円は本件事故と相当因果関係のある損害と考えられる。同年九月中の一七回の通院は、すでに治療期間の終りに近く、かつ一〇月一日からは曲りなりにもホステス労働が出来たことを考え合わせれば、電車もしくはバスによるのを相当とし、その一回の実額が幾何であるかを明らかにする的確な証拠はないが、福岡市内の電車賃から考えれば、少くとも往復一回で七〇円を下ることはないので、一、一九〇円の限度で相当因果関係ある損害として認容すべきものである。(以上合計二万七、八七〇円)
(四) 休業損害 二四万六、五二四円
〔証拠略〕によれば、原告古川はスナツク・ブラボーにホステスとして勤務し、日給三、五〇〇円、月二五日稼働すれば満勤手当五、〇〇〇円の支給を受け得る地位にあつたところ、本件事故により、前示(三)のとおり、昭和四八年六月二六日から同年九月末日まで欠勤し、その間の賃金・手当を失つたこと、同原告の満勤率はほぼ二分の一で、満勤しない月の欠勤日数は平均二日位であることが認められる。
ところで、ホステスが右のような比較的高い収入を挙げるに当つては、平均的女子労働者よりも美容、化粧等に費用を要するものであることは世間周知の事実であるから、かかる費用は職業的経費として、休業損害の算定上控除するのが合理的であり、本件の場合、他に格別の証拠はないから、右の如き経費は少くとも一割を下らないものとして、計算するのが妥当である。
してみると原告古川の休業損害は、前示の満勤率、職業的経費を考慮して、次の算式のとおり二七万三、九一六円と認められる。
<省略>
273,916円×(1-0.1)≒246,524円
2 原告竹下関係(慰藉料・弁護士費用を除く)
(一) 治療費 二〇万六、六〇〇円
〔証拠略〕によれば、原告竹下は本件事故による傷害を治療するため、昭和四八年六月二六日から同月三〇日まで(五日間)広瀬外科に入院したが、原告古川同様に早期退院して、同年七月一日から同年九月二六日まで同外科に通院し、その間に七一回受診し、二〇万六、六〇〇円の治療費を要したことが認められる。
(二) 入院雑費 一、五〇〇円
右(一)の入院期間によれば、前記1(二)と同じ理由により一、五〇〇円をもつて相当損害と認められる。
(三) 通院交通費 二万九、二七〇円
〔証拠略〕によれば、原告竹下も前記1(三)の原告古川と同じような症状・理由により、広瀬外科への通院にタクシーを利用し、一回の往復に平均五二〇円を要したが、そのうち八月までの通院回数は五四回、九月中は一七回であり、原告竹下も一〇月一日から原告古川と共に一時的にではあるが従前の勤務先にホステスとして応援に出向いたりしていることが認められる。
右の事実によれば、前記1(三)と同じ理由で、次の算式により二万九、二七〇円の限度で本件事故と相当因果関係ある損害として認容すべきものである。
520円×54+70円×17=29,270円
(四) 休業損害 二五万、四四三円
〔証拠略〕によれば、原告竹下もスナツク・ブラボーにホステスとして、前記1(四)の原告古川と同じ給与条件で勤務していたが、本件事故により昭和四八年六月二六日から同年九月末日まで欠勤し、その間の賃金、手当を失つたこと、同原告の満勤率は原告古川よりも高く、欠勤は少なかつたことが認められる。
右の事実および、前記1(四)で説示した職業的経費を勘案すれば、原告竹下の収入は一年間無遅刻、無欠勤の場合の九五パーセントには達していたものとして、その休業損害は、次の算式によつて二七万八、二七〇円と認めるのが相当である。
<省略>
278,270円×(1-0.1)=250,443円
3 原告らの慰藉料(過失相殺の有無) 各一五万円
(一) 被害車両を運転していた訴外矢山にも本件事故発生について過失があつたことは当事者間に争いがないところ、被告らは、原告らは被害車に夜間、無償で乗車し、自ら危険を招いたに等しい面があると主張するけれども、夜間、無償で乗車したということだけでは自ら危険を招いたとは言えず、本件全証拠によつても、矢山について、飲酒、酒酔いその他、運転上の危険を予知せしめるような兆候があつたことを窺わしめる特段の事情が認められないから、矢山の過失のゆえに、原告らが自ら招いた事故であるということはできない。したがつて過失相殺の主張は採用できない。
(二) しかし、〔証拠略〕によれば、原告らは矢山広美と知人もしくは友人関係にあり、本件事故の当時は、それぞれの自宅に送り届けてもらうべく、しかも原告竹下はその夫と共に、被害車両に同乗していたものであることが認められ、また原告古川に至つては、矢山に過失があつても同訴外人に対して損害賠償を求めるつもりはないことを明言する。これらの事実に徴すれば、原告らは矢山の関係ではいずれも好意同乗者に該当するものと認められるが、好意同乗者がその運転者の過失によつて損害を蒙つた場合の賠償額の算定に当つては、好意同乗の実質的関係を考慮して、少くとも慰藉料の算定上、かかる関係にない同乗者の場合よりも減じ得るものと言わなければならない。そして、本件事故につき矢山にも過失があつたわけであるから(争いがない)、本件事故は矢山と被告平山との共同不法行為であり、損害賠償義務は被告会社をも含む三名の不真正連帯債務となるものであることを考えれば、矢山のために慰藉料を減じうる右事由は、本件被告らの慰藉料支払義務を定めるに当つても、これを斟酌しうるものと言わなければならない。
右に述べたところおよび先に認定した本件事故の状況、傷害の程度その他の事実を合わせ考えれば、原告各自の慰藉料はいずれも一五万円をもつて相当と認める。
四 損害の補填
請求原因4の事実は、当事者間に争いがないから、前記三の原告古川の損害合計六五万二、九三四円に対して金三八万八、七九〇円が、原告竹下晴美の損害合計六三万七、八一三円に対して金三六万八、六七〇円がそれぞれ填補される結果、原告古川フサ子は金二六万四、一四四円、原告竹下晴美は金二六万九、一四三円を請求できることになる。
五 弁護士費用
被告らが任意の支払に応じないので、原告らがその訴訟代理人に本訴の提起・追行を委任し、判決言渡の日に弁護士費用を支払う旨、約したことは弁論の全趣旨、本件記録および各原告本人尋問の結果によつて明らかであり、本件事案の難易、審理の経過等を考慮すれば本件事故と相当因果関係のある弁護士費用は原告らそれぞれ金三万円と認めるのが相当である。
六 結論
よつて、原告古川フサ子の請求は右損害金合計二九万四、一四四円とうち金二六万、一四四円に対する本件不法行為の日である昭和四八年六月二六日から、残金三万円(弁護士費用)に対する本判決言渡の日から、それぞれ支払ずみまで年五分の割合による遅延損害金を、原告竹下晴美の請求は右損害金合計二九万九、一四三円と、うち金二六万九、一四三円に対する本件不法行為の日である昭和四八年六月二六日から、残金三万円(弁護士費用)に対する本判決言渡の日から、それぞれ支払ずみまで年五分の割合による遅延損害金を求める限度において、いずれも理由があるからこれを認容し、その余は失当であるから棄却し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条、九二条、九三条を仮執行の宣言につき同法一九六条一項を各適用して、主文のとおり判決する。
(裁判官 山本和敏)